
「寝れない」という方は多いですが、自分がどれくらい「眠れていない」のか、きちんとした方法で把握できていますか?
最近は睡眠トラッカーなる、睡眠の質を評価できるアイテムが増えてきていますが、医療者が紹介するには少し心許ないところ。
なので、まずは睡眠についてどのような検査があったり、何を測定したりするのかを調べてみました。
睡眠を評価する方法
客観的な評価が難しい「眠れない」症状
まず、「眠れない」とはどういうことでしょうか。よく聞く「不眠症」とは、何が違うのでしょうか。
不眠症の定義
不眠症の定義:
http://jssr.jp/kiso/syogai/syogai01.html
夜間中々入眠出来ず寝つくのに普段より2時間以上かかる入眠障害、一旦寝ついても夜中に目が醒め易く2回以上目が醒める中間覚醒、朝起きたときにぐっすり眠った感じの得られない熟眠障害、朝普段よりも2時間以上早く目が醒めてしまう早朝覚醒などの訴えのどれかがあること。 そしてこの様な不眠の訴えがしばしば見られ(週2回以上)、かつ少なくとも1ヵ月間は持続すること。不眠のため自らが苦痛を感じるか、社会生活または職業的機能が妨げられること。などの全てを満たすことが必要です。
基本的には、本人の主観が優先されるのですが、不眠症として診断を受ける場合は、だいたい上記のような定義に沿って診断されます。
主観的な訴えを評価する
例えば、ただ「眠れない」だと、対処の幅が広すぎる上に、根本的な原因も見えてこないので、少なくとも我々のような医療従事者であれば「より客観的な指標」を踏まえて評価する必要があります。
看護師は眠れない患者に対して「どう眠れないのか」を聴取するわけですが、これだと傾聴スキルが影響して、しかも聞き逃しなどがあって「他者が評価」しているものの、客観的な指標とまでは言えません。

例えば、質問表などを用いて睡眠を評価しようとする試みはあります。
規則性・質・量の 3 要素で睡眠のタイプを評価する質問票の開発
CAPとは
CAP(cyclic alternating pattern)とは睡眠時の特徴的脳波像を指し,和名では周期性交代性パターンという。
解説が難しかったので、簡単に説明します。
先ほども述べたように、睡眠の質は、基本的には個人の主観で決まります。看護師が巡回の時に静かに横になっていても、いびきをかいていても、寝相でベッドから落ちても、本人が「眠れていない」といえば眠れていないのです。
CAPは、睡眠を客観的に評価する方法の一つで、睡眠時の脳波でレム睡眠やノンレム睡眠の睡眠周期を読み取るものです。
CAP法では何がわかるのか
ノンレム睡眠で観察される特徴的な脳波像があります。(一過性の活動性脳波と背景脳波が交代性に出現する脳波像)健康であれば、安定している脳波が、うまく眠れないことで不安定になる、というイメージです。
CAP率が高い場合
- 精神生理性不眠
- 睡眠状態誤認
- 睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)
- 周期性四肢運動障害(periodic limb movement disorder:PLMD)
- 睡眠時遊行症
- 特発性全般てんかん
- Lennox-Gastaut症候群
眠っているのに、脳に活動性のノイズが入ってしまう(起きてしまう)ような感じですね。眠りが浅いような感じです。
CAP率が低い場合
- うつ病
- ナルコレプシー
- 注意欠如・多動性障害(attention-deficit/hyperactivity disorder:ADHD)
過眠というか、脳の活動性が低くなっているような状態って感じですね。
不眠症との関連
CAP法では,精神生理性不眠症と睡眠状態誤認のいずれにおいても健常者群よりCAP率が高くなることが示されたこと,また,それら患者の主観的睡眠感とCAP率の相関性が睡眠段階法の指標よりも高かったことから,CAP法が不眠症の睡眠評価法としての有用性が高いことが示された。
https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=6636
とりあえず、この睡眠パターンを把握することで、病的な不眠の原因を評価することができる、といったものです。
睡眠に関する検査
睡眠に関する検査などについて説明していきます。
脳波
先ほどのCAP法というものもありましたが、睡眠の質などを客観的に評価する場合には、睡眠時の脳波測定が有効です。他の脳・神経疾患との鑑別も(ある程度)可能となります。
CAPの測り方
まず、CAPは脳波を図ることで得られる指標です。つまり、必要な検査は脳波検査になります。睡眠中の脳波測定ということになるため、検査入院が可能となる専門病院で検査をする必要があります。

睡眠に関することは「精神科」の分野となりますが、睡眠中の脳波測定に関しては「SAS(睡眠時無呼吸症候群)」などの治療にも関係するため、呼吸器系でも検査が可能な場合があります。(呼吸器系は入院設備もあるので)
SPECT
脳内血流量を測ります。
今回は説明を端折りますが、脳内血流量は放射性医薬品からの放射線を検知して血中量を測る、というもので、言い換え得ると放射線の出る点滴・注射を事前にする必要があります。
放射性物質を注射する
医者はあまり説明せずに検査をオーダーしやがるので、検査室で患者さんが「えっ、注射あるの?」と驚かれて慌てて説明することがあるので、看護師の方は、患者さんを検査室に送りがてら世間話的に簡単に検査の流れを説明できるといいですね。
CTも同時撮影ができる
最近では、SPECTとCTを同時に撮影できるものもあるので、医療の進歩は凄まじいし、いくら金かかってんだろ、とか勘繰ってしまいますね。
脳波検査のイメージ
- 30分から1時間程度かかります。
- 頭皮に電極用のペーストを塗ります。(電極を固定する)
- 電極を頭の至る所に貼り付けます(結構多いです)
- 安静にしています
- 検査終了後は髪を洗うことをお勧めします
こんな流れで脳波の検査が行われます。睡眠の評価の場合は、睡眠中の脳波をとって異常波形が出ないかを測定していきます。
終夜睡眠ポリソムノグラフィー検査

脳波に加えて、眼球運動やら呼吸状態、筋・心電図も合わせて測定する検査になります。睡眠の総合的な評価が可能となりますが、全身にモニターを装着するので大掛かりです。

私も患者さんから話を聞くくらいで見たことはありません。精神科的には、確定診断のために必要な検査ではあります。
他の疾患と鑑別する
不眠の訴えがある場合、精神科系の疾患、脳・神経系の疾患、SASなどとの鑑別を行います。
鑑別の際に検討される疾患
- てんかん
- 脳炎
- 脳・神経の器質的な障害(脳腫瘍・脳血管障害・頭部外傷による脳損傷など)
- 睡眠を阻害する痛み・痒み
小型脳波系の開発
あまり関係ありませんが、脳波測定ができる機械自体は小型化はしているものの「カートで押す」くらいのサイズ感です。先ほども申し上げた通り、検査のためには入院する必要もあります。

これが、将来的にはポケットに入るくらいのサイズとなり、電極も簡易的に貼り付けが可能となれば、ホルター心電図のように、医療機関から貸し出して24時間脳波の測定が可能となります。
スリープスコープ
ちなみに、スリープウェルという会社から、かなり小型化された睡眠測定器がリリースされています。この製品についてあれこれ解説はしませんが、とりあえず小型化はできる、ということだけ。
https://katosei.jsbba.or.jp/view_html.php?aid=672
ウェアラブルデバイス
最近のウェアラブルデバイスは、ベッドなどの振動や、いびき、心拍数などを計測して、対応するアプリで睡眠を評価できるようになってきています。
この辺りが一番、日常生活には取り入れやすいと思います。
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