粉ミルクの話をすると必ず出てくる、「エンテロバクター・サカザキ」。WHOが70℃以上で粉ミルクを調乳することをガイドラインに載せています。
常温でミルクをつくるのはNGとしても、実はそのサカザキ菌が70℃でも死滅しないって知ってました?

ただ、どうしても死滅させないといけない理由はあるのか、「自分ですべき対策」などの情報をまとめました!
- WHOはサカザキ菌の殺菌のために70℃以上の熱湯で調乳することを提案
- 実験では一度繁殖したサカザキ菌は70℃では完全に死滅しないことが検証された
- 70℃以上の熱湯で調乳するとビタミンが破壊されるがメーカーとしては「誤差の範囲内」
- 一番「安全」なのは90℃の熱湯で調乳だと言える(ただし、その必要性があるのか検討)
- ウォーターサーバーならボタン一つで90℃調乳がOK
サカザキ菌について
感染した場合には、重篤な症状や後遺症があるサカザキ菌について解説していきます。
サカザキ菌とは
まずはエンテロバクター・サカザキ菌がどのような症状を引き起こすのかみていただきたい。
Cronobacter sakazakii (C.sakazakii)は、ヒトや動物の腸管および自然環境下に広く分布する通性嫌気性グラム陰性桿菌で腸内細菌科に属する。
http://www.fsc.go.jp/sonota/hazard/H21_9.pdf
本菌は、全年齢層に対して感染する可能性があるが基礎疾患を持った乳幼児(早産児、低出生体重児など)および高齢者に感染リスクが高く、脳膿瘍、壊死性腸炎および敗血症を発症することがあり重篤な場合は水頭症や髄膜炎を併発し致死率も約40~50%と高く、重度の神経学的後遺症が残ることが多い。
食品により媒介される感染症等に関する文献調査報告書:エンテロバクター・サカザキ
エンテロバクター・サカザキの特徴は致死率の高さと後遺症の存在です。
致死率が40〜50%がおそろしいことはみなさまにもお判りいただけることと思います。

ふたり並んで座って、ふたりともサカザキ菌を発症した場合、どちらかが三途の川を拝むことになるね。
ちなみに、罹患した場合の併発症もかなり重篤な病気です。

私は看護師なので医療に多少心得はありますが、読んだらちょっと恐ろしさに震えたね。
健康であれば発症することはほとんどない
ただ、これはあくまでも体の防御反応が菌に負けて症状を引き起こした場合。
ほとんどの健康な人の場合に関しては、体内に入ったところで発症せずに、からだのもともとある、防御機構でやっつけることができます。
エンテロバクター・サカザキ感染症は、健康なヒトが本菌にさらされても発症することはほとんどありません。しかし、乳幼児(特に、未熟児、低体重出生児および免疫不全児)を中心に敗血症や壊死性腸炎を引き起こすことがあります。
ミルクを与える赤ちゃんは免疫不十分のため要注意
ただ、乳幼児に関しては、やはりまだ免疫機能が不十分な場合が多く、特に未熟児、低体重出生児、低栄養児に関しては注意が必要です。
ちなみに、発生頻度自体はそれほど高いものではなく、1才未満の乳幼児において、エンテロバクター・サカザキ菌による感染症は10万人に1人の発生頻度であったとされています。
ただし、上記に書いたように症状がとても重篤であるために、感染対策としては念には念を入れるべき事案として捉えられています。
子供が弱っているときはどんな状態?
栄養状態を観察しよう
お子さんの栄養状態に関しては、哺乳量をみながら、体重の増減をフォローしていくのが基本です。
大まかな栄養表は参考ページへ。
あかちゃんにミルクを飲ませる際に気をつけること
お腹壊しやすい赤ちゃんの場合、ミルクを作るときの水にも注意したいところ。

ミルクの適正な温度について
サカザキ菌を考慮した上で、適切なミルクの温度について考察していきたいと思います。
70℃は細菌数を減らすが滅菌にはできない
70℃で殺菌ができるということは、WHOのミルク作成のガイドラインがおおもとになっています。 厚生労働省についても、ミルクについてはWHOのガイドラインを参考にして制作しています。
WHO的には70℃でOK
以下、WHOのガイドラインです。
FAO/WHO のリスク評価(FAO/WHO、2006 年)によると、70°C 以上の湯で PIF を調乳する場合、粉乳中に存在している E.Sakazakii についてはこの温度で死滅することから、リスクは劇的に減少する。
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/iyaku/syoku-anzen/qa/dl/070604-1b.pdf
乳児用調製粉乳の安全な調乳、 保存及び取扱いに関するガイドライン |厚生労働省
ということで、基本的には70度以上のお湯で粉ミルクを溶かす/調乳することが必要であると書かれています。厚生労働省も同じようなことを推奨しています。
育児用調製粉乳中のEnterobacter sakazakiiに関するQ&A
粉ミルクを溶かす適正温度は本当に70℃でいいのか
ちなみに、50℃でつくると、このエンテロバクター・サカザキさんという細菌、まったく減りません。熱いお風呂くらいじゃサカザキさんは快適なわけですね。
70℃でも菌は検出される
70℃にするとようやくがっつり減りますが、じつは70℃でも生きてます。90℃で検出不能域に達するということですね。
汚染菌数が高い場合、70°Cの調乳ではEsは完全に死滅せずに生残することがわかった。

これを読むと怖くなるけど、あくまでも「汚染菌数が多い場合」ですからね。
免疫不全児などリスク の高い乳児が対象となる場合は、商業的滅菌済みの液体ミルクを使用するか 90°C以上の温水で調乳する のが望ましいと思われる。
粉末状乳幼児食品におけるエンテロバクター・サカザキ(クロノバクター属菌)の消長
少なくとも、エンテロバクター・サカザキ菌については、70℃でも効果としては十分であるが、「細菌が死滅するわけではない」ということだけは念頭に入れておいてもらいたい。
ミルク作りで怖い食中毒
サカザキ菌以外にも、ミルクを作る上で気をつけなければいけない「食中毒」があります。
ミルクで怖い食中毒はサルモネラにも注意
さて、サカザキ菌以外にも、注意すべき食中毒がありまして、粉ミルクの場合はサルモネラにも注意すべきです。
サルモネラ菌は、主にヒト・動物の腸管内に生息する細菌で、数多くの種類があり、中にはチフス性疾患をおこすものや、下痢、発熱といった食中毒をおこすものがあります。サルモネラ菌は、粉ミルクの製造過程では混入することはほとんどありません。粉ミルクを開封した後、粉ミルクを溶かすときや溶かした後に混入することがあるようです。
フランスではサルモネラでリコール
フランスでも、2017年に汚染した疑いがあるとして7000トンも大量に回収するといったことがありました。
この商品は世界中に輸出されているため、世界各国でサルモネラ中毒の報告があり、多数の訴訟まで発展しました。
日本は、ほとんどが自国のミルクメーカーで生産されたもので、大きな事件まではなりませんでしたが、世界では「粉ミルクやべぇぞ」みたいな感じになってました。
サルモネラに対してのWHOの反応
その際に、WHOからのリスク喚起として、以下のような声明を発表しています。
粉末状の乳児用調合乳は無菌製品ではありません。サルモネラ菌は、原材料にかなり含まれており、長期間の厳しい乾燥条件下でも生存が可能です。ぬるま湯で製品を調製すると、最初は低レベルであったサルモネラ菌が急速に成長/増殖することが可能になり、行き着くところ、乳幼児に重篤な病態や感染の発生を引き起こすことがあります。
https://www.forth.go.jp/topics/2017/12271021.html
粉ミルクは一見すると清潔そうに見えるのですが、製造元から汚染していた場合には菌はしっかりと生き残ります。
先にも説明した通り、70℃以上の熱湯であれば、サルモネラ菌についても不活化できるので、やはり、ミルクをつくる際の温度の基準は70℃以上と考えていいようです。
ミルク以外にもサルモネラが好む食材は「生肉」「卵」
サルモネラといえば、卵と鶏肉(食肉)は覚えておかないと国家試験は通りません。それくらい、医療従事者にとっては基礎的な知識であり、食中毒などの対策として「普段から気をつけるべきこと」という認識です。
ここで覚えておいて欲しいのは、キッチンでミルクを作るときに、こういった食品からの汚染にも注意してほしい、ということです。
生肉、卵に触ったら必ず手洗い
- 「生肉に触った後は必ず手を洗う」
- 「生肉を切った包丁やまな板を、野菜などに使いまわさない」
- 卵の殻に触れた時も注意!ミルク作りの環境に卵は入れない
これは、料理の基本的なところなので、料理をしている人は知っていると思います。
料理に慣れないパパは要注意
でも、「赤ちゃん産まれるまでキッチンに立たなかった」料理苦手ママとか、パパは知らないこともあるんですよね。
料理している人は「おそろしい!」と思うんですけど、誰が教えてくれるのかって、こういうことは誰も教えてくれないことだったりします。

魚は別の食中毒の菌や寄生虫がいるので、もっと注意ですよ。
細菌対策にはやはり掃除と手洗いが一番
結局、いきつくところはいつも手洗いなんですよ。少し丁寧に、手洗い方法についても見ていきましょう。

きっと、ミルクの作り方にも役立つはずです!
手洗いは基本中の基本
これはミルク作りだけに言えることではないですが、手洗いは、食中毒予防の基本です。
というよりも、食中毒を広げる原因が、
- 「汚いところを触った手で、他のところに触るので汚い場所が増える」
- 「汚れたことを知らない人は、そこを触ってさらに汚れを広げる」
という手洗いを怠ったがために生まれる、感染拡大の悪循環によるものなのです。これで家中、汚染区域です。あなたのお家はデンジャラスゾーン、立ち入り禁止。
正しい手洗いの方法

こういう手洗い図は、どこかで見たことがあると思います。
何秒以上かけてあらう習慣つけましょ〜、とか、「もしもしかめよ〜」を歌いながら洗いましょ〜とか、やっとことないですか?
図を見てもらえばわかる通り、ほとんどが洗い残しなんですよ。こういうの見た後だと、なんとなく人と握手したくなくなりますよね。
つめ先なんかはミルクを作る際には触ってしまいがちですが、一番菌が繁殖しやすい場所でもあります。
洗い残しが多い場所を把握しよう
いかに、手洗いが大事だか伝わりましたでしょうか。
爪が長い方、「わたし、やることやってんだし爪伸ばしてマニキュアくらい塗ってもいいでしょ、誰にも迷惑かけてないんだし」とお思いかもしれませんが、その指についている武器、毒も盛られているので、思いのほか殺傷能力高いんですよ。
指先の化粧で自分を語らずに、プロのママとして自分を発揮することをお勧めします。
手洗いの順番
ほぼ、テンプレート的な展開ですが、いちおうね。医療者っぽくね、手洗いの順番表みたいなのも貼っておきますよ。
しっかり確認しておきましょう!

キッチンでの注意点
ミルクを作るときは、比較的マルチタスクになりがちで、手洗いや環境衛生への注意が疎かになりがちです。
抵抗力の弱い赤ちゃんへの影響は甚大
当然、どれだけきれいに消毒した哺乳瓶も、乳首も、粉ミルクも。ぜんぶ、細菌感染の可能性があります。

ほんと、手洗いは大事。子供が泣いていると、焦って忘れがちだけどね。
蛇口の取っ手や哺乳瓶を入れておく容器も清潔に
知らない人もいれば、知ってても面倒がってやらないのが、蛇口の取っ手の掃除と、哺乳瓶や乳首が触れる容器、この掃除です。
蛇口の取っ手は、細菌の数で言えば、トイレの便座なんかよりも圧倒的に多いです。
しかも、その蛇口の取っ手の「掃除の仕方(洗剤)がわからない」人が、半数以上も。
手拭きタオルも汚染菌数が多いことで有名ですが(CMのおかげですね)、それでも4割程度は毎日交換していないんですよね。

菌汚染実態から見えてきた キッチン衛生で意識したいポイント

ミルクの菌を気にするよりも、まずはちゃんとした手洗い、掃除が大事ってことね
容器の洗浄は電子レンジで一括除菌が楽チン
私のお勧めになりますが、電子レンジ除菌で乳首も哺乳瓶も、粉ミルクの計量スプーンもまとめて除菌することをお勧めします。
粉ミルクの計量スプーンとか「洗う必要あるの?」と感じる人もいらっしゃるかと思います。いや、いないのかもしれないけど、少なくとも私は「えっ」って思ったけどね。

コンビの除菌じょ〜ずがお勧め!
無難なお勧めになりますが、やはり無難な選択は間違いもないですね。除菌じょ〜ずは除菌してそのまま保管容器にもできるのがいいです。
ミルクの食中毒・感染対策のまとめ
ミルク作りに悩んだ時に知っておきたいこと
色々書きましたが、私個人としては「このサイトまで検索して、ここまでしっかりと情報を読み込める方なら大丈夫」だと思います。むしろ心配なのが、色々な情報を詰め込みすぎて不安の処理ができないこと。
当サイトが何かひとつでも不安軽減に役立てばいいのですが、むしろミルク作りのハードルを上げてしまっていたら申し訳ない、という思いもあります。
ミルクの作り方のおさらい
WHOも厚生労働省も、世界的に「母乳推奨」ではあります。免疫・栄養・愛着形成のことを考えると、確かに母乳育児は大切だと思います。ただ、これが育児のハードルとなってもいけないと思います。
社会的にいえば、お母さんがリラックスして母乳育児ができる環境が整えばいいのだけど、現状としては多くのお母さんは育児を途中にして働きに出なければいけないし、家に残れたとしても育児のプレッシャーが和らぐかといえばそうでもない。
語り始めると長くなるのでやめますが、「できること」は「やらなければいけないこと」にしてはいけないし、いつもできる必要はないと思います。それに、私らパパとしては、母乳でママたちがつらい思いをするよりも、適度に粉ミルクを取り入れてパパたちの役割を増やして欲しいとも思っています。

夜中に起きなければいけないのがママだけじゃなくて、パパや同居するジジババも含巻き込んで、みんなで育児に関わる。みんなで「あの時は大変だったね」って笑い合えるようになりたいよね。
ちなみに、「手抜きのミルク作りと本気のミルク作り」について解説した記事もあるので、こちらも参考にしてみてください。案外、大丈夫なところは大丈夫だし、ダメな時は適宜対応を変えたらいいのよ。

情報は相談し共有する
私もそれなりに発信はしていますが、やはりママの悩みはママにするのが一番。コロナの影響もあって在宅でいることが増えている今だからこそ、気持ちだけは閉じこもらずに、悩みは誰かに相談するのが一番の解決法です。溜め込むのは良くない。
ママリは育児に役立つ情報サイト
当サイトもコメントは受け付けていますが、中身はやっぱりただのおっさんなので、どうせなら同性に相談できるのがいいかな、と思い、ママリの情報なんかを載せておきます。

私はこういうサイトにも投稿するのに抵抗を感じるレベルの人見知りですが、他の人の相談なんかを読んでいるだけでも、「みんな大変なんだな」ってわかるので、少しは気が休まるかと思います。
ベビレポも相談ができる育児記録アプリ
長くブログをやっていると、「アプリを紹介してくれ」という話をよくいただき、色々と拝見することが多くなりました。ちなみに、育児関連のアプリをまとめた記事もあります。

最近のイチオシとも言えるのが、「ベビレポ」です。先程のママリとどちらがいいかといえば、情報をまとめるという意味では育児記録もママ情報も集められるベビレポが使い勝手も良くてお勧めです。

とはいえ、育児記録系のアプリは、自分が記録していて負担じゃない、楽しいと思えるのが大事だから、使いやすいやつを選んで気に入ったやつを使い続けていければいいのかな、と思います。

私は可愛いやつがいいけど、旦那が可愛いのを使っていると嫌なので、お互いの使いやすいところで妥協し合うのも大事ですよね。
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