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クレプトマニア(窃盗症)の看護と、病態などの基礎情報

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クレプトマニアを病名として看護することはあまりないケースですが、精神科で働いていると「きっとこのかたはクレプトマニアだな」と言う患者が入院するケースには出会でくわします。

基本的には入院の契機となった問題について看護するまでにとどまるとは思いますが、内在する問題としてクレプトマニアが見られたときにどのように関わればいいのか私なりに考えたこと、文献で漁ったことなどの情報をまとめておきます。

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クレプトマニアの疾患基礎知識

看護は後半でまとめましたが、まずは「そもそもクレプトマニアって何よ」という点について説明(というか私が勉強)していきます。

ぶっさん
ぶっさん

私は精神科看護師で、合併した精神疾患の看護はしていましたが、クレプトマニアの専門治療に関しては勉強不足です。詳しい方がいらっしゃいましたら、ポイントなどコメントいただけると助かります。

クレプトマニアの病態を知る

まずはクレプトマニアの病態についてまとめていきます。

窃盗症(せっとうしょう、英: kleptomania、クレプトマニア)とは、経済的利得目的以外で、窃盗行為という衝動を反復的に実行する症状で、精神障害の一種である。

https://ja.m.wikipedia.org/wiki/窃盗症

話題性はあるが疾患についての知識には疎い

クレプトマニア自体はあまり聞く病気ではありませんが、「万引がやめられない人」がいることは、ワイドショーやら情報番組やら、NHKのドキュメンタリーなんかを見ている方なら知っている方もいらっしゃると思います。

専門病院ではない限り、クレプトマニアを理由に入院するのは少ない事例だと思います。「こんな病気の特徴がある」という点を抜き出していきます。

クレプトマニアの特徴

クレプトマニアの特徴
  • 窃盗の理由に金銭の有無は関連しない(お金がないから盗むわけではない)
  • どうしても欲しいもの、というわけでもない
  • 根本的な精神的な不安定さ(ストレス・不安)がある
  • 報酬系にも影響があり万引き行為に依存が生じる
  • かなり強い常習性
  • 他の病気(精神疾患)の二次障害、合併症である場合が多い

お金があっても盗む

理由の一つや、衝動の起因の一部として「お金がない」ということはあるかもしれませんが、クレプトマニアの窃盗(万引き)は基本的にはお金の有無はあまり関係がありません

というよりも、窃盗に対しての明確な理由はほとんどありません。金銭が後付けの理由として証言されることはあるかもしれませんが、疾患の本質を考える場合には、患者の証言だけではない部分にも目を向ける必要があります。

一般的な窃盗との違い
クレプトマニアの万引きの特徴
  • クレプトマニアは衝動性が強く計画性は薄いが、窃盗は計画的
  • 一般的な窃盗は物質的な利益を求めるが、クレプトマニアは精神的な満足感を求める

DSM-5のクレプトマニアの診断基準

  • A:個人的に用いるのでもなく、またはその金銭的価値のためでもなく、物を盗もうとする衝動に抵抗できなくなることが繰り返される。
  • B:窃盗におよぶ直前の緊張の高まり。
  • C:窃盗を犯すときの快感、満足、または解放感。
  • D:盗みは怒りまたは報復を表現するためのものでもなく、妄想または幻覚に反応したものでもない。
  • E:盗みは、行為障害、躁病エピソード、または反社会性人格障害ではうまく説明されない。

精神疾患の診断基準としてよく使われるDSM-5では上記のように表現されています。

ぶっさん
ぶっさん

他の精神疾患を原因とはしないもので、窃盗に対する欲求に抗えない疾患、というニュアンスですね。

鑑別が必要な疾患・症状

クレプトマニアと間違えやすい疾患
  • 行為障害(窃盗という反社会的行為)
  • 躁病(気分高揚)
  • 妄想・幻覚状態(統合失調症や薬物依存など)
  • 前頭側頭型認知症(衝動性が強く制御が効かない)
  • 摂食障害(食べ吐きなどのための食料を手に入れるため、ただし合併の可能性も高い)
  • 解離性障害(無意識化で抑圧された欲望を行動化する)

クレプトマニアのチェックリスト

チェック項目設問・項目
1万引きや人の物やお金を摂るのが犯罪だとわかっているのに、盗んでしまう。
2必要ない物なのに盗ってしまう。
3他人に見られていることがわかっているのに、盗ってしまう。
4盗むことが割に合わないことがわかっているのに、やってしまう。
5何度も見つかって注意をされたり、職場で問題になったり、自分の立場が危機状態にある。
6盗む行為に衝動的に抵抗できない、または気がつくと盗んでいる。
7物を盗む前にはそのことしか考えられない。
8物を盗むときには快感、満足感、解放感がある。
9自分の意思ではこの行為をやめられない。
10窃盗で逮捕され、何度も刑務所に出入りしている。
http://www.ohishi-clinic.or.jp/kleptomania_check.html

クレプトマニアの類型・モデル

クレプトマニアは症状の特性(衝動的にものを盗んでしまう)から疾患名をつけたようなものなので、患者のタイプはそれぞれ異なります。合併症もあると考えられますので、まずは、どんなタイプのクレプトマニアが存在するのか調べてみます。

嗜癖障害(依存)モデル

いわゆる、Addiction(依存)と言われる病気から派生したタイプ。大きく分けると「物質嗜癖」と「行動嗜癖」に分けられる。薬物依存などから幻覚・妄想状態や脱抑制となり物を盗む場合もあるが、これは一時的なものでクレプトマニアとはいえない。ただ、アルコール依存などに陥りやすい性質の方がクレプトマニアにいこうしているパターンはありそう。

多くは行動嗜癖で、クレプトマニアの万引きそのものが嗜癖とも言える。

強迫性障害モデル

先の嗜癖障害と似ていますが、強迫行為として万引きを犯すケースもあるようです。

「強迫観念」と「強迫行為」によって強迫性障害は成り立つ。大半は、強迫行為に対して「おかしな行動だ」と自覚しているが、強迫観念から行動をやめることができない。犬や猫なども強迫行為を繰り返すことがあることが確認されている。つまり、脳の神経伝達物質レベルでの障害なので、治療の必要性は高い。

クレプトマニアとしては、「強迫観念」の一種として盗癖に至る考えに取り憑かれるものと、常習化してからの「また盗んでしまうのではないか」という考えなどから、代償としての「強迫行為=窃盗」となる可能性がある。

情動モデル

ぶっさん
ぶっさん

クレプトマニアにはうつ病が多い、という話をうっすら聞いたことがあるのだが、根拠となる論文は見つけられていないので、時間がある時に探してみます。

うつには「罪業妄想」「貧困妄想」などが症状として現れることがあるのですが、これにストレスなどが重なって窃盗にいたる、ということかもしれません。

情動モデルに関与する疾患
  • うつ
  • パニック
  • 過食
  • 偏頭痛
  • 過敏性大腸炎
  • 多動衝動型ADHD

メモに上記疾患リストが括り付けられていたので書いてみたものの、偏頭痛や過敏性大腸炎がどのように関与していたのか、原本の解説を失念したので、また手直しします。

ADHDモデル

ADHDに関しては、衝動性が制御できない、ということと、依存的な行動に対して「過度に集中してしまう」ことから常習化しやすいと考えられます。

器質性モデル

転換、前頭側頭型認知症、抗うつ剤の副作用などがあります。(こちらも情報書き直す予定です。)

クレプトマニアにみられる精神疾患合併症

どちらがメインの疾患かは事例によるとは思いますが、合併している精神疾患を載せておきます。

クレプトマニアと一緒にみられる精神疾患
  • 感情障害(45-100%f`00)
  • 不安障害(60-80%)
  • 強迫性障害(0-60%)
  • 物質使用障害(23-50%)
  • 衝動制御障害(20-46%)
  • 摂食障害(10-44%)
  • パーソナリティ障害(43%)

ご覧の通り、かなり高い確率で合併している疾患があります。

そのため、クレプトマニアに関しては、万引きという表面化した行動だけではなく、精神面での脆弱さ、本人のパーソナリティ傾向、精神疾患との関連を鑑別し、同時並行で治療していく必要があります。

クレプトマニアと犯罪・裁判について

私は法律の専門家ではありませんが、看護として関わる場合は法律を知っておいたほうが得なので、クレプトマニアという疾患がある場合に窃盗がどのように裁かれるのかを少しばかり調べてみました。

法律で対処するか疾患として治療するか

検索しながら思ったのですが、クレプトマニアのキーワードは大部分が「法律事務所」の記事です。

クレプトマニア患者を助けるのは「法」なのか

これは、クレプトマニアの場合「刑事罰」の対象となり法の裁きを受けることになる(そのために病気が発覚する)ケースがほとんどであるため、弁護士の法律解釈や本人が弁護士に相談することを目的とした導線があるためです。

弁護士によるクレプトマニアの記事は、クライアント契約を目的とした導線記事です。これらの記事から治療の意義について読み取るのは難しいですが、クレプトマニアという疾患が、治療と法の裁きという天秤の上にあることは明白。

万引きはしているので、精神疾患であっても罪を犯していることに変わりはありません。とはいえ、根本にある本人の精神面の不安定さ(内在する精神疾患)を解決しないことには、万引きは繰り返されます。万引きを食い止めても、万引きとは別の形で実生活に影響の出るような依存行為が出現する可能性もあります。

法の制裁をひとつの区切りに

あくまでも個人的な意見ですが、優先すべきは法律への対処であっていいと思います。ある程度落ち着いたところで、しっかりと腰を据えて治療の望むのがいいのかと思います。

地域で治療するためには罪を償うことから

万引きの場合は、被害者(盗んでしまったお店)との示談となって不起訴の場合もあるにはあります。今後、地域で治療を行なっていく場合には、そういったお店が(お店側は望まない場合もありそうですが)治療のパートナーとなって「場」を提供することになります。罪を軽くするという目的というよりは、一度、窃盗という事実には区切りをつけるために白黒はっきりとはつけたほうがいいのかな、と思います。

ただ、ただでさえ揺らいでいる自己肯定感に歪みが生じる可能性もあるため、周囲のメンタル的なサポートは必須です。基本的には、同じ事例を繰り返すことのないように患者を支えられる体制・環境ができるのが一番です。

クレプトマニアの裁判判例・考え方を学ぶ

大阪地方裁判所岸和田支部(2016年4月25日判決)は、「広汎性発達障害の影響下において、摂食障害、盗癖に罹患した状態にあり、これによる食料品の溜め込みと万引きへの欲求は、その生活全体に影響を及ぼすほど激しい」「善悪の判断に基づいて衝動・欲求を抑える行動制御能力については……著しく減退していた」として、犯行当時は心神耗弱だったと認定し、刑を軽くする根拠とした。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56651?page=4

刑法が定める窃盗罪は、罰金1万~50万円と懲役1カ月~10年の範囲で、法定刑が設定されている。また、盗犯等の防止及び処分に関する法律は、「常習累犯窃盗」という加重規定を置く。窃盗罪で懲役6カ月以上の判決を10年間に3回以上受けた場合に適用され、法定刑は懲役3~20年にまで引き上げられる。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56651?page=4

判例はたくさん読み込んでおくに越したことはありませんが、精神疾患を有する患者の場合は、減刑となる場合もあるようです。それは、クレプトマニアにおいても同様です。ただ、同時に常習性に着目し、より重い刑罰を課される可能性もあるようです。

クレプトマニアの窃盗に関する解釈

PDFですが、以下の文献(講義)内容が大変興味深かったので、学習の理解を深めるために一読すると思慮が深まりそうです。

病的窃盗常習事件に関する量刑及び責任能力判断の 現状と課題ir.acc.senshu-u.ac.jp › …

クレプトマニアを治療・看護する

では、少し看護師の専門分野に入っていきます。まずは、基本的な治療について。その後に看護への実践につなげていきます。

クレプトマニアの治療の基本

  1. 生活習慣の改善
  2. 認知行動療法
  3. 窃盗行為のトリガーを自覚する
  4. 窃盗に至らない回避行動を身につける
  5. 自助グループを利用する

認知行動療法に関する補足

CBTでは、クライエントの思考や行動パターンなどを細かく分析し、特に窃盗行動に関連していると思われる強い感情や衝動的な行動の意味や妥当性を深く考え、クライエントのペースに合わせてセッションを進めていきます。

また、対人関係を上手く保つスキルや、自分の気持ちを上手く落ち着かせるテクニックも学び練習していきます。

CBTの最終目的は、クライエントが療法終了後も自分で適切な行動や認知を実践し継続することにあります。

https://kmri.org/patient.html

この辺りの内容は看護にも深く関わっていきます。特に、療養上の指導をする際には、基礎知識として持ち合わせておきたいところです。

リラプス プリベンション

依存症の再発防止のための治療などに用いられるプログラムです。治療の主軸となりますので、合併している精神疾患などと合わせて行なっていきます。

再発防止のためのプログラム
  1. 自分が強迫的または衝動的に窃盗行動に出るに至るまでのプロセス(引き金→思考→渇望→行動化)を知ること
  2. 自分の認知の歪みに気づくこと
  3. 行動変容
  4. 自分なりの問題解決スキルを獲得すること
  5. リスクマネジメントプランを作成すること

http://www.enomoto-clinic.jp/care/klepto/

クレプトマニアの治療目標

まず、クレプトマニアの治療目標は、ある意味では単純明快ですが、根本的な解決はかなり難しいです。

万引きは絶対にできない・繰り返させない

まず、クレプトマニアの絶対的な目標は「窃盗をやめる」ことです。期間限定ではなく、どんな状態であれ、「万引きしない」を一生涯続ける必要があります。当然、法に触れるから、他の人に迷惑がかかるから、です。逮捕され、万引きした自分を呪い、周囲や環境を恨み、自己嫌悪に陥る、その悪循環を断ち切るためにも、万引きをしないことは第一の目標になります。

自分を知り、自分を否定し、自分を認める

しかし、クレプトマニアにとって「万引きをしないこと」は、これまでの自分を殺すことに他なりません。生活様式を一から書き換え、自分のあり方を見直し、全てを否定した上で、自己概念を構築していくという、書いていて抽象的だな、と思うことをやってのける必要があります。

簡単に書くと、「心の弱さ」が根本的な原因で、これは性質の問題。一度、万引きに至るまでの行動パターンを徹底的に洗い出してどのポイントで衝動性が出現するかを考えます。この衝動性が出現するポイントに、まずは到達しないように計画します。

ただ、心を鍛えればいい、というよりは、心の弱さがある自分を受け入れて、どのように行動を変容させるかが大事だと思います。

万引き体験を語れるようになる

「万引きしない」というゴールは明確ですが、死ぬまで達成することもない目標です。そこで、最初のゴールとしては、まずは万引きという体験から目を背けずに、自分の内面を語れることが実生活に向けて第一歩となると思います。

生まれた時からクレプトマニアという方はいません。発症年齢が20歳代から(若年齢化している可能性はあります、データ探します)であることを考えると、やはり一度確立したアイデンティティが、何らかの形で揺らいだ時に、クレプトマニア、万引きという形で出現しているのだと思います。この時、抑圧された内面を誰かに相談できることで、アイデンティティを保つことができる場合もありますが、クレプトマニアの多くの患者さんは、周囲に相談できる環境がない、家族の不理解があったりします。

万引きをする自分がいることはまず認め、自分の体験・感情を人に話すことで、同時に自分の内面に気づくことができるきっかけとなる場合もあります。また、人に話すという行為は「信頼」の提示であり、これまで隠してきた部分を出すことで、周囲も患者に対して受け入れる体制ができてきます。

既に窃盗という犯罪を犯しており、しかもそれが常習化して発見されるのがクレプトマニアですから、周囲の共感を得難く、孤立しやすい。本人も、内面表出が苦手な傾向があり、しかも罪悪感などは人一倍に感じやすいので、自ら人との接触を避けようという節もあります。

看護のポイント

看護師としては、基本的には療養上の生活をフォローし、基礎疾患となるような精神合併症があればそちらの治療をサポートします。最終的には、家族のサポートが得られるような調整ができることが望まれます。

病棟での生活をフォローする

基本的には、刺激となる窃盗行動からは切り離された環境なので、落ち着いて過ごせれば本人が自身の疾患と見つめ合えるように落ち着いた療養環境を提供できればいいと思います。専門病院であれば、同様の症状を持った互助会などに参加できるようにサポートできればいいのですが、参加できるタイミングは主治医と相談していきます。

ただ、専門的に窃盗症の治療を行う医療機関はそれほど多くはないので、一般的な精神科病棟であれば、「このような治療・サポートがある」と地域の情報を提示できるくらいでいいかもしれません。

クレプトマニア患者の精神面をフォローする

既に紹介した通り、クレプトマニアにもいろいろな病型があります。一概に言えることではありませんので患者の特性に応じて対応を工夫する必要がありますが、中でも多い摂食障害合併患者の場合など少し紹介します。

枯渇恐怖を知る

まず、クレプトマニアの中でも摂食障害を合併している方に特に見られるのが、「枯渇恐怖」と「溜め込み行動」です。具体的にいえば、「無料の試供品を大量に持ち込む」などが表面的に観察され、無料ではない(商品)場合にクレプトマニアの症状となります。

摂食障害は生理的にも心理的にも飢餓状態にあります。摂食障害患者は、根本的な部分にパーソナリティ障害があったり、あるいは環境要因として自己概念を強くねじ曲げられるようなストレス状態にあったりします。

これが体重など「数値で評価できる」ものに対して異様な執着のもととなります。似たような話に、「成績だけを評価する、エリート家族」の子供が成績だけに異様に執着するのもありますね。埋められない渇望に対して、単純化した尺度で評価するように認知が歪むのかもしれません。摂食障害の場合は、結果として低体重となります。

ぶっさん
ぶっさん

ちなみに、このエリート系の逸話の子供、最終的に摂食障害患者になるケースもあります。

「食べ物,生活用品,資金,自己に所属する物質や自己の人間的価値の評価がなくなることに対する異常な恐怖」と枯渇恐怖が解説されていましたが、こだわる対象は体重だけではないのも特徴的です。

ヨメちゃん
ヨメちゃん

一度得た評価を失うことに対して非常に強い恐怖を感じ、あるいはもっと体重を下げられると感じて、自分を追い込むことで自己評価を高めるという、ある意味ではストレスに対する対応策なんですけどね。

摂食障害はいずれまた記事にしますが、とにかく、「手に入れたものは手放したくない、手に入れらるものは手に入れたい、手に入らないものでも手に入れたい」というのが枯渇恐怖です。

溜め込み行動を知る

枯渇恐怖に対して、不安を解消するために「溜め込み行動」をとる場合があります。体感的には、摂食障害で盗癖がある患者の場合は、ほぼほぼ溜め込みます。

後述する看護の注意点にもあげますが、ため込んでいいものも悪いものも、とりあえず手に届くものならため込んでみる、という感じです。

枯渇恐怖は際限がありません。生活に必要なものがなくなるかもしれないと、必要以上に買い込んだりします。理屈よりも不安への対処行動なので、実際にそのものが必要かどうかはあまり関係がなく、買い込んだもので棚が一杯になっても、食べ物が腐っても止めることはありません。

看護物品に気をつける

溜め込み行動が見られる場合、特に注意したいのが「看護物品」の管理です。これ、かなり盗られます。看護師も自分たちの看護物品の個数までは気にしていない。大胆な患者だと、箱ごと持っていき、病室の自分の棚をマスクやら手袋やらで一杯にします。

摂食障害治療ともバッティングする盗癖

摂食障害の場合は、治療上完食が義務付けられており、こういった看護物品(ディスポ手袋)などに食事を隠す場合もあるので観察上は注意が必要です。

また、過食嘔吐などの症状が見られる場合、とにかく手に入る食材をかき集めて食べ吐きに利用するため、売店のものから患者のものまでなくなります。さらに、ため込んだものが腐っていても所持するので、食中毒の危険性もあります。

クレプトマニアと隔離・拘束、身体制限

身体拘束・隔離案件にはならないか、でも現実にはなる

クレプトマニアを理由に身体拘束までされることはかなり稀です。というか、たぶんできません。症例としては、摂食障害の治療として拘束することになった事例もなくはないと思いますが、クレプトマニアというよりは生命維持のため。盗癖を制御するための身体固定は治療上の意味を為しません。

ギリギリで、他患者の物品を盗むことを制御できない、という場合に身体拘束・隔離適応があるかもしれませんが、これはいくら病棟内とはいえ窃盗ですので警察案件です。治療のための隔離拘束は、少し無理があるかもしれません。

入院制限で盗品持ち込みを観察する

ただ、精神科病棟の場合は入院に制限をかけることはできるので、隔離病棟で外出・外泊を禁じて、持ち込み物品を制限することはできると思います。この場合、患者の周囲はなるべくシンプルにして、持ち込み物品に関しても盗品がないかをチェックします。

9割がた、チェックする看護師の目をすり抜けて盗品が持ち込まれるケースに発展します。クレプトマニアのモデルにもよるとは思いますが、パーソナリティ障害があったり、あるいは窃盗に対する報酬(高揚感)のために、あえて万引きして持ち込むようなことをする患者もいます。

身体チェックはどこまでできる?

少し疑問に思ったので調べてみましたが、全国的に閉鎖病棟はボディチェックをしていますね。入院案内に記載して患者に事前に説明されているケースがほとんどです。

ぶっさん
ぶっさん

さて、このボディチェック、治療のためとはいえ、患者にとっては人権問題ともいえます。果たして、看護師はどこまで介入できるのでしょうか。

というのは、盗品を本気で病棟内に持ち込もうとしたら、患者は靴や下着の中にまで隠します。本気で盗品を発見するためには患者を全裸にして、持ち物はすべてバッグの中から取り出して机の上に並べるなどの対応が必要です。

ぶっさん
ぶっさん

いや、こんなのもう留置所やん

ただ、実際、やらないと患者さんも歯止めが効かず「看護師がちゃんとチェックしないから悪い」と言われることもしばしば。

倫理と安全性の天秤

病棟入室前のボディチェックで、果たして患者を裸にしてまでチェックするべきなのか。性別には配慮しますが、皆さんご存知のとおり、昨今は性別にも多様性のある時代なので、誰が担当すべきなのか、というのも大きな問題です。

個人的には病棟管理の観点から、患者全体の安全が優先されると考えます。自傷他害のリスクの高い患者・物品の持ち込みの可能性があれば、多少の倫理は置き去りにしてボディチェックされるべき、というような気もします。

看護師は疑われ、職務に忙殺される

また、看護師も複数での対応とし、患者の言質に客観性を持たせるようにします。職務とはいえ、現実には何もしていなくても「男性看護師にボディチェックと言われて胸を触られた」などの被害を訴える患者もいます。

ただ、複数対応を徹底していくと、今度は業務過多となって看護師は対応に追われます。

そんな事情を考えると、果たして看護師が盗品があるかどうかのためのボディチェックなんてしないほうがいいんじゃないか、という気持ちになります。口頭で「これ以外に持ち込み物品はない」と宣言してもらい、持ち込みがあった場合の責任の所在を明確にしておけば、それでいいじゃないか、と。

ただ、なんやかんやでボディチェックは閉鎖病棟の精神科ならついて回る問題なので、クレプトマニアの観察時にも注意はしましょう。ただの余談でした。

盗品が持ち込まれた時の対応を考える

看護師のチェックでは、持ち込まれたものが「盗品」かどうかは確証が持てないケースがほとんどです。

本来であれば、盗んできたことをしっかりと報告できることが目標ではあるのですが、実際にはかなりハードルが高く、難しい。さらに、正直に「盗みました」と言われると、看護師としても対処に困る。なぜ私の時にばっかり、という精神科看護師の嘆きを他所に、場合によっては「あなたの関心を惹くために」という強烈なパーソナリティを持った方もいる。

若手看護師であれば、とりあえず先輩に相談しましょう。相談された先輩は、まずは本人の訴えを傾聴し、言質に合わせて、家族や病院内の売店などに確認しましょう。盗品である可能性が高い場合は、まずは管理師長に相談します。一般兵卒看護師なら、まずはこの辺りでいいと思います。

退院後の生活をフォローする

クレプトマニアのための看護は、専門病院ならマニュアル化しているかもしれませんが、ほとんどの方が知る由のないことだと思います。詳しい方がいたら、アドバイスいただきたいところです。

ざっと考えてみたくらいですが、知識のベースとして日常生活ケアの看護にお役立てください。

買い物の仕方
クレプトマニアのための買い物術
  • 基本的には買い物に行かない、徹底的に近づかない
  • 1人で買い物しない・同伴者をつける
  • 同行者は目を離さない
  • 袋を持たず、ものを入れるポケットのついた服を着ない
  • 店員に「自分は窃盗症で付いてきてほしい」と伝える
  • 試供品にも手をつけない

クレプトマニア以外の依存症でもそうですが、頭の中で「買い物にいく理由」というか、何かにつけて合理化して万引きへと近づけるように脳が仕上がっています。「練習のつもりで、少しウィンドーショッピングだけしてみよう」など、思い始めるともう既に万引きへのカウントダウンが始まっています。

最終段階で、店員に伝えてしまうのが一番効果的だと思いますが、周囲の目も考えると実践レベルではかなりしんどいと思います。ただ、店側も治療のために協力するような関係性が気づけるといいのかな、とは思います。

治療者・家族が気をつけるべき患者との関わり方
  • 買い物同行時は「手を繋ぐ」など意識を向ける、ひとりにする時間を作らない
  • 窃盗衝動が出るポイントを本人から伝えてもらい、共有する
  • 過去の振り返りは冷静に、論理的に行う
  • 患者のプランニングは否定しないで付き合う
  • 心の弱さのせいにするのではなく、病気であることを理解する
  • 万引きのない期間が長くなっても、「治った」のではなく治療の途中であると考える
  • 叱責はせず、相談しやすい雰囲気を保つ
  • 指導するのではなく、あくまでも本人の気づきを活用する
認知の歪みを正すトレーニング
  • 内面の変化(窃盗衝動)をリポートする
  • 買い物を記録する(家計簿、レシート、買い物時間、日記など)
  • ミーティング、SSTに参加する
  • 他人と「気持ちを共有」する練習をする
  • 内面の変化を語る、発見する
  • 自己肯定感を高める活動をする
  • 失敗体験を繰り返さない
  • 何も考えない時間を作る
  • 自分の趣味、楽しいことをする時間を意識的に作る
  • 自分を責める事があれば、同時に意識的に褒められる部分も探す

看護師はポジティブな面をフィードバックする

あくまでも万引きしない環境下ですが、クレプトマニアの根幹には、認知の歪み、自己像の解離、アイデンティティの不確立などがあると考えられます。

一度崩壊した自己を取り戻すのは容易なことではありません。しかし、意識的に「自分を保つ方法」を取り入れる事で、日常生活の中でも自信を喪失せずに暮らすことができることが目標となります。

最初は、自分一人では難しい部分があるので、看護師の手伝いがあってもいいと思います。特に、認知が歪んでいる状態では、自己否定のループに入る可能性があるので、物事を偏った目で見ないように「でも、こういういいところもありましたよね」と気づけるような声かけができるといいのかな、と思います。

ネットショッピングは対策になりうるか

クレプトマニアの看護を探していると、何件か「ネットショッピングの利用」が挙げられていました。お店での買い物は衝動性の制御が難しく、入店した時点で半自動的に窃盗してしまう可能性があります。ネットショッピングは、こういった欲求から遠ざけてくれるという点では対策とはなり得そうです。

衝動性からショッピング依存に?

実例はまだ見つけていませんが、クレプトマニアの根本的な部分には何かしらの精神的脆弱性があると考えられます。嗜癖の対象が変わるだけなのでは、と個人的には危ぶんでいます。

ただ、窃盗とは違い、ネットショッピングの場合は基本的には前払い。さらに、商品到着までの時差があります。一度、衝動的に買い物をしても、返却までの猶予はあります。購入したものを他の人(家族)がチェックする体制も比較的整えやすいです。

内緒でクレジットカードを作るなどされる可能性はありますが、クレジットカードにせよ最終的には支払う必要があるので、(高額になる可能性はあるものの)ずっと隠し通せるものではありません。

別の依存症、問題に発展しない対策が必要

治療のためには、自身の疾患の特徴を踏まえて対策していくことが不可欠です。先にあげたように、クレプトマニアは表出した体系のひとつで、何かしらの合併症や根本的な原因がある可能性があります。精神科治療が必要となって入院・通院しているのであれば、まずはその治療がしっかりと行うことができるようにサポートしていくことが看護の基本となります。

周囲のサポートが得られるように

周囲、というかもう家族と書きますが、精神科の場合は、家族の協力を得るというのが最大のネックです。もちろん、すべての家族が悪の根源だとは言いませんし、素晴らしいサポートをしてくれる家族もいます。ただ、やはり環境が要因となる精神疾患の場合、ほとんどのケースで家族の不理解が見られます。

家族の理解を促す

まず、この不理解をどこまで埋められるか、というのは看護師の腕の見せ所だと思います。クレプトマニアの場合は先にも書いた通りに「万引き」という行為は肯定されるべきものではない上に、共感もされづらい疾患です。

ドクターは患者の家族に病態的な部分や必要なサポートを説明します。これはどこの科でもそうですが、多くの家族は、医師の前では神妙に頷いたりして見せます。医師が退室すると、説明など何もなかったかのように、目の前で患者を叱責したり、「精神がたるんでいるからだ」など言い始めます。

外出・外泊時の評価を行う

実際には、退院してから家族が全く理解していなかった、あるいは結局、具体的な改善策を実施できずに再入院となるケースは多いです。外出・外泊などを取り入れながら、自宅での生活に徐々に移行した際に明らかになる問題を抽出します。

外出・外泊中は家族の監視が強いので問題自体にはならないケースが多いと思いますが、家族も含めて、退院後の生活をしっかりと想像してもらうのが大事だと思います。終始観察が必要な外出外泊であったなら、その生活が本当に可能なのか、考えてもらいます。たぶん、無理なので、ちゃんと生活レベルでの計画を考えていくサポートをしていきます。

実現可能性を客観的に評価し助言する

結局、看護師が計画しても絵に描いた餅にしかならないので、家族で実現可能なものを作り上げてもらう=結局家族も患者も生活制限がつらくなって誰もやらないという結果が、だいたいの場合に待ち構えています。ある意味では不毛な看護でもあるのですが、少しでも患者の治療に役立つサポートができるように努力はしていきたいものです。

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