総合病院では、新人の配属先が「精神科」となる場合があります。というか、私がそうでした。

私の場合は第三希望くらい混ぜ込んでおいたのがピックアップされてのことでしたが、同期では「全く希望も出していなかった」なんて方もいましたよ。
というわけで、その後も精神科で働き続けた経験をお伝えして「不安」を少しでも解消できればいいなと思います。
精神科で働きたくない理由をはっきりさせる
まず、なぜ「嫌だな」と感じたのか、「不安」に思うのかを明確にしていきます。
精神科勤務が嫌がられる理由
- 精神病患者は変な人、怖い人ばっかりで怖い
- 看護技術が身につくのか心配
- 精神科以外で働けなくなるのでは?
- コミュ障なのに精神科はつらそう
- 薬の名前が覚えられなそう
精神科で働きたくなる情報まとめ
まず、先に皆さんの不安を払拭する明確な事実をお伝えしておきます。
- 精神疾患患者は一般的な病人よりも(比較的)優しい
- 看護技術は必要なスキルが自然と身につくもの
- 他科で活用できるコミュニケーションスキルが身につく
- あなただからこそできる、あなたを活かせる看護ができる
- 薬の名前は覚えられない
以上です。詳細な情報はずずいとそのまま読んでいってみてください。
看護技術が身につかない
先に申し上げれば、看護技術が身につかない、なんてのは大した問題ではありません。というのも、どこに配属されようが、どれだけベテランになろうが、医療は進歩し続け、看護師に求められるスキルは変化していきます。
看護学校時代の「スキル」はごく一部
看護学生の時は「採血や点滴ができるか心配」と思って、看護技術を磨くために身体科を選びたくなる気持ちは分かりますが、基本的に必要なスキルはそれぞれの部署で異なります。どこにいこうが、その部署で必要なスキルは自然と身につくものだと思ってください。
精神科だと看護技術は必要ない?
当然、精神科でも看護技術は必要です。
皆さんが一生懸命学んだ、シーツの敷き方なんかは求められていない(というかどこが求めてるんだ)のは事実ですが、採血・導尿・吸引・吸入、ほぼほぼ全て必要になります。
慢性期の療養型の精神科病院でも、患者の異変に気付くためには医療の知識が必須で観察力を育てる必要がある。他科疾患を合併している精神科看護が必要になるので、必然的に他科の知識や技術も必要になるわけです。
むしろいろいろな体験ができる
これは総合病院での話になりますが、大きな病院の場合、精神科は「精神疾患を持った方」が「別の身体疾患」の治療が必要になって入院する場合が多いです。(逆に言えば、精神科単科の病院では、身体疾患の治療時は総合病院に患者さんを送ることになります)
精神科で経験できること
- 患者の年齢層は小児から終末期まで
- 周術期をカバー
- 婦人科系の病気での治療もみる
- 他の病院との連携が強い
- 他職種との連携が強い
- 他科の医者がいろいろ教えてくれる
細かいことを言うと、「他科の医者は要領分からず不用意に飛び込むのをフォロー」したり、逆にオペ系の観察が足りずに、外科担当医にうまく報告できずにめっちゃ怒られたりもします。

ですが、様々な困難が押し寄せるたびに、病棟で力を合わせて乗り越えるチームワークは、働いていて結構楽しかったりします。
精神疾患患者は「怖い人」ではない
精神疾患の患者さんって、怖いイメージがありませんか。私は最初、めっちゃ怖かったです。精神科の実習担当になってからは学生に以下のように伝えています。

大部分の意味合いとしては間違った印象ではあるけど、「怖い」側面があるのは事実。怖い気持ちは払拭するのではなく、心にしまっておいてください。
むしろ純粋な人が多い
私の働いていた精神科は「急性期」病棟としての役割を担っていたので、雰囲気は慢性期・療養型の病院とは異なると思います。そして、精神疾患や重症度、進行度によって患者の特性も異なります。

ですが、基本的には「不器用」で「真面目」で、何より「純粋」な方が多いのが、精神疾患を持った患者さんの特徴です。
なんだったら看護師の方が怖い
余談ですが、入職して数日で悟ったのは「看護師」の方がよっぽど怖いということです。入職したということは様々な病院で臨地実習をくぐり抜けてきたことになりますので、皆さんも薄々感づいているとは思いますが。

お局のいる病棟の雰囲気の方がよっぽど怖いよね。
精神科の先輩看護師は優しい
アドバンテージとして、精神科は急性期でも殺伐とはしておらず、さらに精神疾患患者相手にコミュニケーションを技法として確立してこられたベテラン看護師が多いのはかなり素敵なことです。

つまり、看護師同士でのコミュニケーションも「まずは傾聴」してくれるいい看護師が多いです(諸説あります)。
忙しい病棟ほど、いるだけでつらくなるようなピリピリした雰囲気がありますが、こと精神科においてはその可能性が少し減るので「よかった」と思っていい部分かと思います。
精神科での「怖い」側面
ここまで書いておきながら、先に述べた「恐怖心」については忘れないでもらいたいのです。

慣れてくると緊張感も和らいで、ともすると「慢心」とも言える状態になりがち。
精神科はやっぱり怖い部分もあるのでお伝えしておきます。
精神が錯乱している時はやばい
あえてわかりやすく「精神錯乱」なんて言葉を使ってみましたが、急性期にあり自我を保てない、妄想状態にある患者は(本人には悪意なく、むしろ身を守る手段として)医療者を攻撃してくることがあります。
大丈夫そうに見えても怖い
また、一度寛解期に入ったような患者さんでも、病院の中では「我慢」していることがあります。

早く退院したいし、病気が悪くなっても「言わない」患者さんは結構多い。
慣れてくると表情の変化や言動を見ると「いつもと違うな」と感じることはままありますが、業務に追われて見過ごしがちな経験の浅い看護師だと、調子の変化を見落とすことも。
ともすると、調子の悪い患者さんのテリトリーに侵入して攻撃対象となることがあります。
拘束されていても怖い
身体拘束については、また折を見て説明しますが、「危ない患者さんは隔離されたり拘束されているから大丈夫」と思わない方がいいです。
拘束されているから見落とす医療事故
まず、本当に怖いのは拘束による医療事故です。裁判で100%負ける事案です。拘束されている時点で、医療者は15分ごとの観察が義務付けられますが、拘束されている環境下では「リスク」が高まるくせに観察はしづらくなります。

つまり、医療事故が起きやすい環境になります。
私は、何が一番嫌いかって、インシデントがいやです。ですが、インシデントと隣り合わせなのが拘束だったりするのです。
拘束されていても殴られる
身体拘束や隔離となる理由は「自傷他害の恐れ」が大半で、本人含め、周囲の人が傷つかないようにするためです。ただ、看護師は患者の命を守る為にも拘束や隔離を解除して患者に寄り添う必要があります。
結果、めっちゃ殴られます。

患者さんは隔離・拘束されたストレスで精神増悪していることもあるし、シンプルに怒ってるからね。

こうならない為にも、拘束・隔離を開放するときは看護師複数名での対応としているわけですが。夜勤って、そういうの配慮しない人数配置なんですよ。
自殺が怖い
私が一番怖かったのは、やはり「自殺」でした。これはしっかりとした記事を書こうと思いますが、精神科ならではの「患者さんの死」と向かい合う必要があるので、その点では怖さがあると言ってもいいと思います。
患者のメンタルケアがデリケート
自殺にも関連することですが、「自分の常識」で患者さんと関わろうとすると、不用意に患者さんを傷つけてしまったり、あるいは患者さんに言葉尻をとられて攻撃されたりします。
コミュニケーションの質が違う
これは精神科で頻度は多いものの、むしろ一般科(身体科)での患者さんとのコミュニケーションの方が気を遣うことにはなると思います。ですが、精神科ならではの特殊技法としてのコミュニケーション術(ネゴシエーションといってもいい)を身に付けることができるのでメリットとも考えられます。

うつ病などの感情障害にケア的に関わる場合はなんとなく想像つきやすいですが、パーソナリティ障害など周囲を振り回す気質がある方との会話技術は、長く看護師を続ける方なら必須のスキルと言ってもいいでしょう。
精神科以外で働けなくなる
これは、本人の気の持ちようですが、私は無理だな、と感じました。

精神科が楽しいってのもあるし、他の科でやっていく気力がなくなるってのもあります。
精神科はスペシャリスト主義
精神科は、やはり特殊性の強い医療分野かと思います。
私は看護師は医療職全体のジェネラリストになるべきだと主張していますが、こと精神科においては他科の経験を積んだ看護師を、精神科のスペシャリストとして育っていくのがベストと考えています。

精神科だけじゃなくて、どこの科に行っても同じこと言われると思うけどね、うちは長く続けるスペシャリストが欲しいって。
AIで補えない分野
看護師とAIについて記事にしたことがありますが、精神科看護師はAIに代替されにくい領域です。

患者さんと関わること自体が治療であり、不規則で予想のつきにくい変化は数値化(特徴量)しづらいからです。この辺りのテクニカルなスキルに関しては、今、精神科で働いている方はストロングネス(強み)と考えて磨いていくことをお勧めします。
専門・認定看護師
この辺りはまた余裕が出てきたら記事にします。
リエゾン看護
私が憧れたリエゾン看護についてはまた記事にします。
身体科は忙しい
精神科と比べて、身体科(一般科)は忙しいです。
更衣室で定時を迎えられるのは限られた人間だけですが、余程のことがない限りは精神科は定時で帰ることができます。

定時で帰ることができない精神科に関しては、おそらく看護師としての業務が一線を超えて、多すぎる雑務を抱えています。見直されるべきです。
急変があればアウト
どれだけ働き方が改革されようと、患者さんは急変しますし、急変したらマンパワーが必要です。
病院(入院)では急変が増える
在宅での治療にシフトしていく中ですので、これからの病院(入院)は治療の必要度が高まっている方が対象となります。当然、急変の可能性があるような患者さんの濃度が高まります。
マンパワーを補うために便利な機械やAIなんかを導入しようと、急変時には人の手が必要になります。なので、身体科において定時で帰るはそもそも無理な話です(普段はちゃんと帰れます)。
精神科看護師の派生型(将来性)
メモ程度ですが、精神科看護師は別の仕事につけるか考えてみました。
- 精神訪問看護
- 心療内科看護師(クリニックなど)
- カスタマーサービス全般
- 発達障害の支援系事業(放課後クラブなど)
- メンタルサポート系の事業
- 企業型看護師(うつ病ケア)
訪問看護が熱い
王道は精神訪問看護です。今後の需要も高まるため、夜勤キツくなってきた李、周囲との人間関係に疲れたら、訪問看護への転職もありです。
精神科こそコミュ障を必要としている
まず、これは看護師全般に言えますが、看護師はコミュニケーションは必須スキルですが「話し上手」である必要はありません。
話し上手な方が職場スタッフとの会話は便利ですが、患者さんと話をする場合は、基本的に「聞き役」であればいいのです。

まぁ、実は聞く技術の方が意識して身に付けないといけないんだけどね。
自称コミュ障ほど気配り上手
コミュ障にも何パターンがありますが、自分でコミュ障を自覚して積極的に慣れない方は、むしろ周囲への配慮を気にしすぎている節があります。(HSCを参照)

自分の言動を過度に気にしすぎるくらいで、精神科看護はちょうどよかったりします。また、患者さん自身がそこまで細かな機微を気にしない(発達障害、精神状態が不安定)であるため、かえってコミュ障を気にせず働けるかもしれません。
薬の名前が覚えられない

大丈夫です、私も全く覚えられませんでしたから。
精神科は、基本的には薬物療法です。そして、似たような名前の薬が多い上に、ジェネリックが採用されていると名前を覚えるのは大変です。

まずは、自分の受け持ち患者さんに限定して、患者さんがどうしてその薬を飲んでいるのか、調べながら事例と紐付けると覚えやすくなりますよ!
漢方薬が覚えられない
ADHDの漢方薬
ADHDの漢方薬についてまとめた記事があります。

睡眠薬が覚えられない
精神科で覚えておくべき睡眠薬についてまとめた記事です。

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